新居格『杉並区長日記』評(1955年)

〔読売論説主幹・松尾邦之助氏〕
新居格が杉並区政の汚濁と因習に反逆した記録、この区長日記は、たとえそれが軽妙なユーモアとアフォリズムで綴られていても、現在日本の民衆が汚職乱闘の醜議院に反逆している悲劇的感情以上に深刻な悲憤である。
二本のネクタイを結んで平気で歩いていた新居格は決して奇行の変人ではない。狂っているのは、新居ではなく、むしろ固定観念につながれているこの日本という国の世の中である。これは単に貴重な人間的記録としてだけでなく、日本の進歩のためにも、ぜひ広く読まれなければならない数少い書物の一つである。(学芸通信社版『区長日記』(新居格/1955年)より)

〔朝日論説主幹・笠信太郎氏〕
私は初め、大した期待もせずに原稿を読み出したが、すぐに、その平凡な言葉が、胸を打ってくる力に驚いた。真ッすぐな線の上を歩いてゆく著者が、その周囲のゆがみを、生のままに示してくれる。これは、日本の政治をどう考えたらよいかを、そのものズバリで、教えてくれる。私はこの書を村長や町長や市長や県知事に、是非とも読んで貰いたいと思う。もちろん市民たる皆さんには、一層読んでもらいたい。この中には上からの政治ではなく、下からの政治がよく書いてある。もしこの書が、幸いにベストセラーになって広い層に読まれるなら、いまの日本の低い政治の水準が、多少とも、必ず高まってくると、私は信じる。(学芸通信社版『区長日記』(新居格/1955年)より)